歯科業界でも ジルコニア の需要が増えています
ジルコニアはファインセラミックの中で、物性においても強度、審美性、生体親和性、経済性のすべてにおいて最も歯科材料として優れています。
海外での需要が多くなり、日本でも認知度が高まるにつれて、金属に替わる歯科材料となりました。
現在、ジルコニアは歯科材料としても身近な存在となりましたが、今後も、その素材優位性から、需要は加速度的に増加し続けていくと考えられます。
ジルコニアと歯科の歴史
1798年にマルティン・ハインリヒ・クラプロートによってジルコンから発見されました。1824年にイェンス・ベルセリウスにより、フッ化カリウムジルコニウムをカリウムで還元することによって初めて金属分離されました。 国内では1944年に福島県塙町真名畑鉱山でジルコニウムの鉱脈が初めて発見されました。
歯科では1998 年にDeguDent社(現 Dentsply Sirona)がジルコニア CAD/CAM システムのCercon systemを発表し、従来のアルミナよりも高強度のセラミックということで普及がはじまりました。2001年にチューリッヒ大学とDeguDent社が、イットリア部分安定化ジルコニアのセルコン ベースを発売しました。2002年にはNobel Biocare社が焼結ジルコニアを用いたフレーム製作法を提唱し、NobelProcera systemを発表しました。
日本国内では2005年にようやく厚生労働省によってCercon systemの薬事認可がおりて、ジルコニアを使用することができるようになりました。2006~2007年になると、Lava、NANO ZR、ZENO Zr、KATANAの認可が次々とおりて、ジルコニアの普及が本格的に始まりました。
この頃のジルコニアは「白い金属」と呼ばれるように、強度は高いが透過性が低い3Y-TZP 系ジルコニアが主流でした。透過性が低くそのままでは審美性が良くないため、メタルフレームの代わりとして使って表面に陶材を築盛していました。その後、イットリアを多く含んだ高透過性のPSZ系ジルコニアが開発され、ジルコニア単体の補綴物としても使用することができるようになりました。現在は更に改良されており、高い強度と透過性を両立したうえにグラデーションがかかったDISCも発売され、より審美性が向上しています。
ジルコニアとは
ジルコニアとは金属であるジルコニウム(ZrO2)の酸化物で、常態では白銀色の固体として存在します。ジルコニウムの酸化した白い粉末を焼き固めたのがジルコニアセラミックスです。融点が2715 ℃と非常に高いため、スペースシャトルの外壁材など耐熱性セラミックスの材料として利用されたりもしています。
ジルコニアは温度変化によって、単斜晶系、正方晶、立方晶へと結晶構造が変化します。その過程で体積変化を伴うため、温度の昇降を繰り返すことによって劣化してしまいます。
そのため、酸化カルシウムや酸化マグネシウム、酸化イットリウムなどの希土類酸化物を添加することで、結晶構造の変化を抑制して安定化させています。
このように安定化剤(酸化物)を添加したジルコニアを、安定化ジルコニアといいます。
歯科で使用されているジルコニアは、添加剤の量を減らすことでわずかに不安定な部分を混在させ、変態出来るようにした部分安定化ジルコニアです。
部分安定化ジルコニアは、セラミック特有の硬さ(硬度)に加えて粘り強さ(破壊靭性)も高いのが特徴です。
また、イットリウム、カルシウム、マグネシウム、ハフニウムなどを、4%~15%添加した安定化ジルコニアを立方晶ジルコニアといい、モース硬度は8~8.5でルビーやサファイヤの次に固く、エメラルドよりも硬いです。
透明でダイヤモンドと同程度の高い屈折率を持つため、模造ダイヤモンドとして装飾品で使用されています。
ジルコニアの特徴
ジルコニアの5つの特徴
- 強度が高い
- 透過性がある
- 金属より軽い
- 生体親和性が良い
- 資源が豊富
強度が高い
「硬くてキレイだが壊れやすい」というのが従来のセラミックスの特徴ですが、ジルコニアは白い金属と例えられるほど強度が高い素材です。
曲げ強度
曲げ荷重に対して亀裂や破壊が生じる力を表す。数値が大きいほど壊れにくい。
ジルコニアはメタルをのぞく歯科修復材料の中で最も高い曲げ強度を誇ります。
築盛に使用される長石系陶材と比較すると、なんと約15倍(1400MPa)の曲げ強度があります。
曲げ強度は、3点曲げ試験(4点曲げ試験)で測定します。
試験方法によって値が変わるので注意してください。
ヤング率
ジルコニアの曲げ強度が高い理由に、剛性が低いことが挙げられます。剛性とは「たわみにくさ」のことで、「ある一定量たわませるのに必要な力」をヤング率で比較します。
ヤング率は数値が大きいほど剛性が高くてたわみにくいです。
セラミックは剛性(ヤング率)が高いのが特徴ですが、その中でジルコニアはアルミナの半分程度しかありません。一般的に剛性が高い方が良いように感じますが、逆に「たわむ」ことで応力を緩和して壊れにくい補綴物となっています。
破壊靭性
クラックの進展する際の破壊応力を表す。数値が大きいほど割れにくい。
破壊靭性とは破壊する際に材料が示す抵抗のことです。曲げ強度は亀裂の入っていない状態で測定されますが、亀裂がある場合は亀裂を起点として破壊が急速に進行します。つまり破壊靱性の値が高いほど壊れにくいことになります。曲げ強度の高いジルコニアが金属よりも破折しやすいのは、金属よりも破壊靭性が低いためです。
応力誘起相変態強化機構(マルテンサイト変態)
ジルコニアは金属と比べると破壊靭性が低いですが、セラミックの中では圧倒的に高い値です。これはクラックができた際に、その周辺の結晶が変化して進展を抑える応力誘起相変態強化機構(マルテンサイト変態)によるものです。
ジルコニアに大きな圧力を加えると、熱処理をしなくても結晶構造が正方晶から単斜晶へ瞬時に変化します。マイクロクラックが発生すると周りの結晶構造に応力がかかって、正方晶から単斜晶に変態します。単斜晶は正方晶より体積が大きいため、結晶が膨張しクラック部に圧縮応力が発生してクラックの進行を抑制します。このような結晶構造の変態は、他のセラミックにはないジルコニア特有のものです。
硬度
物質の硬さを表す。数値が大きいほど硬い。
セラミックの硬度は一般的に、試験片にダイヤモンド圧子を押し込んだ際に示す抵抗を表す「ビッカース硬さ」が使われます。
ジルコニアは非常に硬くて、耐摩耗性に優れています。
そのため対合歯を摩耗させないように、鏡面研磨で仕上げたり咬合接触を工夫する必要があります。
対合エナメル質の摩耗について
ジルコニアによる対合歯の摩耗度についてはいくつかの研究結果がでています。
■チューリッヒ大学 ヘンメル教授
50Nの力を120万回繰り返し加えたときの天然歯同士の咬合と比べてどのくらい差が出るかの実験をおこなったところ、研磨していないジルコニアでは3倍の摩耗があったが、研磨したジルコニアでは半分だったと報告しています。
■ストーバー
天然歯と比較して 2 倍の摩耗があったが,他のセラミックスと同程度で臨床応用に問題がないと報告しています。
■ムンデとローバウアー
共に2年間の臨床研究だが、臨床応用に問題がないと報告しています。
天然歯同士の咬合を1とした場合の天然歯(対合歯)の摩耗度比較
天然歯 × 天然歯 | 1 |
天然歯 × Co-Crクラウン(研磨有) | 1倍 |
天然歯 × 焼き付け陶器 | 1.5倍 |
天然歯 × ジルコニアクラウン(研磨有) | 0.5倍 |
天然歯 × ジルコニアクラウン(研磨無) | 3倍 |
対合歯を摩耗させる原因は、硬さよりも表面の粗さが原因
ガラスにチョークで字を書こうとしても、まったくチョークが削れず書けないのと同じ原理です。
ジルコニアの結晶は超微粒子なので表面性状はとても滑沢です。
適切な咬合状態で研磨してあれば硬さは問題ないといえます。
透過性がある
ジルコニアは高い強度を有しながら透過性もあるのが大きな特徴です。
ジルコニアの厚さが薄くなれば透過率が高くなり、反対に厚ければ透過率が低くなります。
ジルコニア0.5mm片、1mm片の透過率比較写真
これは、ジルコニア原子配列が全て同じではなく、配列の向きが異なる領域(結晶粒)が多数集まった構造を持っているからです。ジルコニアに入射した光は、結晶粒内を通過することで透過性が減少します。
また、結晶粒の境界(結晶粒界)において生じる反射とジルコニアの屈折率により光が散乱して透過性が減少します。
実際の天然歯も透過性があります。エナメル質は90%以上がハイドロキシアパタイトで構成されており、単一な組成に近いために散乱が起きず透過率が高いです。象牙質はハイドロキシアパタイトの他に水分や有機質を多く含んでおり、それらの屈折率の差から散乱が起きて透過率が低くなっています。
メタルボンドなど従来の審美補綴物は、強度を補うために金属フレームを使用しています。金属は光を透過しないので、補綴物を口腔内にセットすると歯が暗く見えるというデメリットがあります。そのため金属フレームをジルコニアフレームに変えることで天然歯に近づき審美性が向上します。
弊社で扱っているジルコニア材料の透過率
ジルコニア材料 | 透過率 |
---|---|
パール | 43% |
パールマルチレイヤー | 45~49% |
パールエナメル | 44~55% |
金属より軽い
比重は水を1としたときの密度の比で、数値が大きいほど重いです。
ジルコニアは12%金銀パラジウム合金と比べると約1/2、陶材焼付用金属のプレシャスメタルと比べると1/3の軽さです。
ロングスパンのブリッジやインプラント上部構造の補綴物で金属を使用すると、ズッシリとした重さを感じるので、ジルコニアを選択することで患者さんの負担を大きく軽減できます。
生体親和性が良い
ジルコニアは生体親和性が高くて安全性が高い材料で、人工関節などにも使用されています。骨や歯にはハイドロキシアパタイトなどの無機成分で構成されています。そのため同様の成分のセラミックスは生体に最適な材料なのです。
特にジルコニアは陶材と比較しても極めて溶解量が少ないとされています。耐蝕性にも優れ、生体を為害することはありません。
また、ジルコニアはプラークがつきにくく衛生的な材料でもあります。
ジルコニアの結晶構造は非常に密のため、研磨で鏡面仕上げにすることができます。そのためツルツルしてプラークがつきにくくなります。
セラミックの微細組織(走査型電子顕微鏡写真)
資源が豊富
ジルコニアの原料であるジルコニウム鉱の主要な鉱石は、バデレー石(酸化ジルコニウム)、ジルコン、ジルコン砂です。ジルコンは火成岩中に微小な結晶として広く産しますが、資源としては海浜や河川の岸や砂丘で砂状に濃縮した漂砂鉱床から採れます。オーストラリアは世界最大の産地で、主に東海岸と西海岸に集中しています。資源が豊富なため、金属のように価格が高騰しにくく、価格が安定しています。
国別埋蔵量 (合計 73,000 千t)
国別鉱石生産量(合計 1,500 千t)
日本においては、福島県石川町や岐阜県中津川市苗木付近でジルコンサンドが採れる程度で、ジルコニウム原料はほぼ全て輸入しています。
ジルコニアを使用した補綴物
陶材築盛型ジルコニア
オールジルコニア
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